経済的全損について
交通事故により車が破損する被害が生じた場合、被害者は、その車の損害について、加害者に賠償を請求することができます。
車の破損の程度が修理可能なものであれば、車を事故前の状態にまで回復するために必要かつ相当な修理内容である限り、その修理内容として適正な修理額相当額が損害として認められるというのが原則的な考え方です。
しかし、適正な修理費であったとしても、その修理費が車の時価額に買替諸費用の一部を加えた額よりも高くなる場合には、修理するよりも安く同種の車を入手できるわけですから、高い修理費ではなく安い時価額の方を基準として損害を認めれば足りるとするのが経済上合理的であると考えられます。
そこで、このような場合には、修理費相当額は損害として認められず、車の価値(時価額)に買替諸費用の一部を加えた額と破損した車の価値(被害車両の売却代金)との差額しか損害として認められないものとされています。
このような場合を一般に経済的全損と呼んでいます。
裁判実務上も、物損による損害は、被害物件を修理する以外に同種のものを入手することができないような特別な事情がない限り、被害物件の価値を限度と解すべきものである、とされています(東京高裁平成4年7月20日判決、大阪高裁平成9年6月6日判決参照)。
立証責任について
以上のように、被害を受けた車が経済的全損となるか否かは、「修理費」が「車の時価額+買替諸費用の一部」よりも高くなるか否かにより判別されるわけですが、その認定にあたっては、適正修理費用の賠償を免れようとする加害者において、修理費が事故前の被害車両の価格及び買替諸費用の合計額を上回ること(経済的全損であること)を立証する必要があるものとされています(東京高裁平成28年11月10日判決参照)。